婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

「それはちょっと難しいかも」

「なぜですか?」

「蛍の寿命は二週間くらいなんだ。だから連れて帰ってもすぐに死んでしまうかもしれない」

「二週間?」

 知りませんでした。そんなに短い寿命だったなんて。私はもう一度蛍に目をやりました。

 儚い命の昆虫だったのね。
 何度も光を点滅させている蛍は精一杯命を輝かせているのでしょう。

 私は蛍を天に捧げるように高くあげました。

 私の気持ちが通じたのか、蛍は今度こそ大きく羽を広げて夜空に飛び立っていきました。あの蛍には来年は会えないのね。
 少し寂しい気持ちになりながら蛍を見送りました。

 やがて、蛍たちの群れに紛れてわからなくなりました。


「名残惜しそうだね」

「はい、ちょっとだけ」

 ほんとは連れて帰りたかったのだけど、しょうがありませんよね。寿命が二週間では育てる期間がありませんもの。

「幼虫から育ててみたらどうかな?」

「幼虫ですか?」

 唐突に何をおっしゃるのでしょう? 幼虫? 

「卵からでもいいけど。とにかく成虫になる前からローラが育てれば蛍を見ることができるよ」

「それって、私でも育てることができるってことですか?」