「レイ様、離してください。お願いします」

 ここは頭を下げて許しを請うしかないでしょう。

 レイ様を見上げて目を見つめ心を込めて懇願してみました。レイ様の瞳に私が映っています。念を入れてじーと様子を窺います。
 私を見つめていたレイ様の目が細められて唇が緩やかに弧を描きました。

 ささやかな希望を持ちながら、艶やかさを増した美貌に見惚れていると

「うん。もう少し、じっとしてて。まだ、一分しか経ってないよ」

 くらりと眩暈を覚えました。

 私の気持ちは通じなかったようです。
 レイ様の辞書には離すという文字は掲載されていないのですね。あとで書き加えることを進言いたしましょう。

 それにしても、はあ……抵抗する気力がなくなってしまいました。

 なぜ、私を抱っこしたがるのでしょう。
 私が小さい子供に見えるのでしょうか? 
 時々口調が子ども扱いになりますから、目を離せないくらい頼りなげに見えるのかもしれません。

 そうでも思わないと理解できません。

 私は匙を投げました。
 これ以上は疲れるだけでしょう。

 セバスやダン、エルザが言ったように、レイ様の気のすむようにさせてあげる方がいいのかもしれません。抵抗することを諦めて私はレイ様の身体に身を預けました。