「レイ様、ひどいです」

 気持ちのやり場がなくてレイ様の胸をポカポカと叩きました。
 黙って言われるままでは気が済みませんもの。こぶしで叩いたところで効果はないのはわかっていますが、なにもしないではいられません。

「ごめん、ごめん。からかうつもりはなかったんだよ。ごめんね、半分くらいは本気だったけど」

 叩くのに一生懸命だったので最後の方は聞こえていませんでした。

「もう、意地悪しないでください。ひどいです」

「ごめん、ごめん」

 私の攻撃から逃れるように腕でガードをしていたレイ様でしたが、すぐに私のこぶしの威力などないとばかりに手首をつかむと深く抱き込きこみました。

 動きを塞がれてしまって、これでは何もできません。

 腰に肩に腕が巻きついて体が密着しているためか、レイ様の温かい体温が私の身体に伝わります。
 人肌ってこんなに安心するものなのですね。

 しばらく諦めてレイ様の胸に体を預けていましたけど、ハタッと正気に返ります。
 ここでズルズルとレイ様のペースにのせられてはいけないわ。

 そうです。
 戦わなくては。
 レイ様の思い通りにはさせませんわ。

 彼女なら大丈夫じゃないかしら。
 きっと私の味方をしてくれるはずです。


「エルザ。助けて」

 私は最後の頼みの綱である彼女の名前を呼びました。