婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

「謝罪は受けてはもらえたんだが、慰謝料はいらないと突っぱねられた」

 土下座したかいはあったようだ。

 しかし、父の渋い顔がさらに渋くなって困惑の色も浮かんでいる。
 こちらが誠意を表したにも関わらず、慰謝料を拒否するとは……

「どういうことなんです?」

「ブルーバーグ侯爵殿がいうには、娘は婚約破棄には応じたが心の傷を負っている。娘のことを思えば、とてもじゃないがお金に換えられるものではないと言われたよ」

 あちらの言い分もわかるが、だからこそ感情のもつれはお金で解決する。それが一番の方法だと思うのだが、何か気に入らないことでもあるのか。

「だったら、あの邸を慰謝料代わりにすればいいのではないですか?」

 あの旧邸の購入者はブルーバーグ侯爵なのである。
 手付金は二割、引き渡し日に残りの金額を支払ってもらうことになっていた。手付金も返して土地と邸ごと譲り渡せばよいのではないか。

「それも提案したんだが、断られたよ」

「そうですか。そういうことであれば仕方がありませんね。こちらは誠意を見せたうえで断られたのなら、これ以上できることはありませんね」

 打つ手はすべて打った後か。