婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

 今回の婚約も破棄という醜聞がなければ諸手をあげて賛成するところだ。

 テンネル侯爵家といえば国で1、2を争う資産家。経営している事業も手広く世話になっている貴族も多い。
 まともな恋愛成就で結婚が成立すれば、うちにもかなりの恩恵を受けることも可能だったろう。

「リップサービスで十分ですよ。あの二人が侯爵家を継ぐなどお先真っ暗な未来しか思い浮かびませんが、どんな形にしろ、テンネル侯爵家へ嫁ぐわけですからね。最高の形で厄介払いができるというものです」

 嫁いでしまえば侯爵夫人になろうが、平民になろうが知ったことではない。
 
 うちで下働きをしていた女と駆け落ちして嫡男として次期当主の責務から逃げ出した叔父。その叔父が遺した娘を哀れに思い養女にしたのが間違いだった。

 平民として暮らしていたから、貴族としてのふるまいを身につけろと言っても一朝一夕では無理かもしれない。
 しかし、マナーや教養、作法に至るまで覚えるどころかすべて放り出してしまったからな。

 容姿はかわいらしく見た目はいいのだから、貴族らしさを身につけさえすれば可愛げもあったというのに。