ここいらで助け舟を出してくれないかと私は隣に座るシャロンを窺うように見る。
 蜂蜜色の艶やかな金色の髪、春の若葉のような明るい翡翠の瞳。スッと伸びた鼻梁にふっくらとした唇。人が羨むような美貌は結婚した今でも変わらない。時には少女のようにはしゃぐ姿もまたかわいい。

 そんな愛する妻の今の顔は、無表情……
 怒っているのか、落胆しているのか、悲しんでいるのか。
 ダメだ。感情が読み取れない。
 視線はまっすぐにフローラに向けられている。
 
「ご期待に沿えず申し訳ございません」

 私達の沈黙をどのように理解したのかわからないが、フローラが頭を下げる。
 この件でフローラが謝ることは何もない。すべてあちらの失態、有責である。これははっきりしている。

「フローラが謝る必要はないよ。こちらが損をすることはない。むしろあちらの方が慌てているのではないかな? あとはまかせなさい」

 私はフローラに余裕の笑みを見せた。
 こちらに不利な契約はしていない。事業を始めるのはすべて結婚後である。婚約破棄が正式に決まれば撤退すればいいだけの話で困るのはテンネル侯爵家のほうだ。

 フローラは私の言葉に安心したのか表情が緩んだ。

「フローラ、つらかったわね。大丈夫よ、あなたのことは私達が守るから」

 シャロンがフローラの隣に座ってそっと肩を抱いている。
 
「お父様、お母様。ありがとうございます」

 フローラは緊張から解き放たれたのか安堵の息を漏らした。シャロンは労るように娘の背を撫でている。落ち着いたころを見計らってフローラを部屋に返した。明日は学園を休んでいいと言葉を添えて。