「お帰りなさいませ」

 重厚な扉が開き執事長のサントが俺を出迎えてくれた。俺の名前はジェフリー・チェント。男爵家の嫡男である。
 久しぶりに踏み入れた邸の中は新築したて特有の木の香りが漂っていた。

「ただいま」

 玄関のエントランスホールの正面の壁には、大きな金の額縁の風景画がかかっている。
 サントにコートと帽子を預けるとその風景画を眺める。

 小高い丘の眼下には家が立ち並びその先には船が停泊している港が見える。そして海原の向こうには大陸が描かれている。

 これは我がチェント男爵領の象徴である海、港、漁、養殖、貿易と領民たち。
 領地の命ともいえる大切なものを写し取った絵画を玄関に飾って、日々の励みにしているのだ。

 そういえばリリアが絵はどうしたのかと聞いていたな。

 くくくっ。

 笑いがこみ上げてくる。
 あそこにあるわけはない、今はこの家にあるのだから。

 そう目の前に……