「婚約解消? それは本当なのか?」

「はい」

 娘のフローラがこくりと頷いた。

 私はローレンツ・ブルーバーグ侯爵。
 夕方、フローラをダンスパーティーへと送り出したばかりだったのに、数時間もせずに娘は帰宅したという。具合でも悪くなったのかと心配していたところに、私達に話があると聞き妻のシャロンと一緒に席に着いたのだった。
 そこで聞かされたのがエドガーによる婚約破棄宣言。

「結婚まで一年もないというのに今更解消とは……」
 
 私は呆れて次の言葉が出てこない。婚約をして二年。来年学園を卒業したら結婚式を挙げる予定だった。二人とも了承しているはずではなかったか。

「エドガー様は真実の愛を知って、そのお相手のリリア・チェント様と結婚なさりたいそうですわ」

「真実の愛……」
 
 なんと答えたらいいのか。演劇の話でもあるまいに。貴族の結婚で真実の愛などとほざいて婚約者をないがしろにすることなど、ありえないだろう。 
 結婚後、新しい事業を始めるために準備を進めているのに、婚約解消? 
 頭が痛い。
 まったく、アッサム・テンネル侯爵は何をしていたんだ。何も気づかなかったのか? 
 色々な事柄が頭の中を駆け巡って言葉が出てこない。