「理由を聞きたいのかい?」

「いえ、いいです。聞かなくてもわかりますから。ごめんなさい。余計なことを聞いて」

「いや。いいんだよ。家の備品がなくなっているのを見れば心配するのも当たり前だ。すまないね。せっかく引き取って養女にしても、裕福な生活をさせてあげられなくて申し訳ない」

 にこやかだったお義兄さまの表情が曇りみるみる陰りが帯びていった。

 調度品が置かれていた玄関も今は申し訳程度に、どこにでもありそうな花瓶に花が飾られているだけ。
 お金に困っているのよね。
 
「いえ。平民よりはましですから」

 お父さんが亡くなってお母さんと二人で働かないと食べていけないからせいいっぱい頑張ってた。
 仕事で無理をしたのかお母さんも病気になってあっという間に亡くなったわ。一人残されて途方に暮れたけど、そんな時にチェント男爵が現れたのよ。

 実はお父さんはチェント男爵家の嫡男で跡取りだったと。それで一人娘のあたしを引き取って養女にしてくれたのよね。
 あの日々のように朝から身を粉にして働かなくてよくなったし、住む家も食べ物もある。
 それを考えれば今の生活は天国だわ。