「そうか、確かに、すぐすぐには無理だな。しばらくはゆっくりしていなさい」

「はい。そうします。ありがとうございます」

 よかった。これからは自由な時間が取れそう。ローナの研究もうまくいきそうだから、気を抜かないように頑張らなくては。晴々とした気持ちで決意を新たにしているとお母様のにこやかな声がしました。

「フローラ、ケーキを食べましょう。人気のケーキ店で買ってきたのよ」

 お母様の言う通り、いつの間にか目の前には紅茶と一緒においしそうなケーキが並んでいます。

「このケーキ、お母様が買ってきたのですか?」

「ええ、そうよ。せっかく外に出たのですもの。帰りに寄って来ようと楽しみにしていたのよ。人気のお店だから朝のうちに予約しておいたの。おかげですぐに買えたわ」

 お母様が翡翠の瞳をキラキラさせながら無邪気に笑っています。

 婚約解消の話し合いに行って、帰りはケーキ店に寄るって心境的にありなのでしょうか? しかも、予約ですか?
 どれだけウキウキしてたんですか。お母様。

 ちょっとした眩暈に襲われた私を横目に、お母様は幸せそうなお顔でケーキを食べています。お父様は紅茶を飲んで、自分のケーキをお母様に分けてあげています。

 両親はとても仲がいいのでこんな光景も日常の一コマなのですが、何か、解せません。
 が、紅茶も温くなってしまいますね。ケーキも食べないとお母様に取られてしまいます。話も終わったようですから、今度は美味しいものを堪能しましょう。