「あのクソガキとの婚約解消なんて、フローラには何のダメージもないぞ」

 えっ……お父様、今、なんとおっしゃいました? えっ?
 私はびっくりして目を見開いてお父様を見てしまいました。

「そうよ。フローラは正々堂々としていればいいのよ。あなたは何も悪いことなんてしてないわ。むしろ、被害者よ。心配しなくても結婚相手は引く手あまたなんだから」

 お母様が励ましてくださいます。

「研究資金だって、家で十分出せるからな。そこも心配しなくてもいい。やりようはいくらでもある」

 お金の心配はしなくてよいのね。お父様の言葉にパッと目の前が明るくなったような気がします。

「それじゃあ、結婚はしなくてもいいんですね」

 色々疲れてしまった私は期待を込めて聞きました。結婚より研究。研究さえできれば何もいりません。

「「……」」

 私の意見に賛成してくれたと思ったら、何なのでしょう? ジッと私を見つめながらの二人しての沈黙は……
 気持ちを理解してくれたと喜んだのに、固まったまま微動だにしないお父様とお母様。何か言って頂かないと不安になります。

「コホン」

 我に返ったらしいお父様の咳払いが聞こえました。

「結婚したくないのか?」

「できれば、今は考えたくありません」

 本音はしたくないのだけれど。正直に言ったらガッカリされそうです。なので言葉を濁しました。これだって本音ですからね。