緑薫るこの中庭は、庭師が丹精込めて整えたというよりも着の身着のまま植物が植えられている感じ。
 ともすればごちゃごちゃとした雑多な雰囲気を与えかねない景観なのだけど。
 万人が好むような色とりどりの花ではなく、木々の緑に溶け込むような目立たない素朴な植物が花を咲かせ自然に近いような造りになっているせいかしら? 何故だかとても落ち着くのよね。

「今日はごめんなさい。急に呼び出したりして」

「いいえ。気にしないで、大丈夫よ。それで、どうしたの?」

 フローラは研究で忙しいので約束事は数週間前に決めることが多いから、昨日の今日とかいう風に呼ばれることはまずないのよね。だからよほどのことなのでしょうね。彼女のためならいつでも駆けつけるけどね。
 
 メイドたちがいなくなるのを待って、フローラは重ねられた本の中に挟んであった手紙を取り出した。
 あら、薔薇がデザインされた見慣れた封書。

「あのね。先日、これが届いたのだけど」

「ローズ様からね」

 わたしの顔を窺うように見てフローラはこくりと頷いた。

「ディアナはどうだったの? 同じものが届いてる?」

「ええ、頂いたわよ」

「よかった」

 わたしの言葉に安心したのか、緊張気味だったフローラは胸のあたりで手を組み合わせて安堵の息を漏らした。