「じゃあ、わたくしから話すわね。あのね、先日思いついたのだけれどスイーツのお店を出そうと思ってるの」

 お母様がにこやかにキラキラとした瞳で私に語りかけました。

「お母様が? スイーツのお店を? 本当ですか?」

 お母様はドレスのアトリエを経営しています。人気のお店で忙しいと聞いていますが、お店を増やして大丈夫なのでしょうか?

「ほら、わたくしってケーキの食べ比べが好きでしょう? いろんなお店に行くのもいいけれど、いっそのこと自分で自分好みのケーキを出したらどうかしらって、閃いたのよ。ローレンツに話したら名案だってすぐにOKしてくれたのよ。ねっ、あなた?」

 お母様はニコッと少女のようなあどけない笑顔をお父様に向けました。お父様はハハッとぎこちない笑いを浮かべると何度かうん、うんと頷いています。
 二人の様子を見ているとお母様に強引に押し切られたのでしょう。

「それでね。あなたが開発したお菓子類も一緒に出そうと思うのよ。どうかしら?」

「はい。それが可能ならばお願いします。せっかく考案した商品が、日の目を見ずに消えてしまうのは忍びないですもの。でも、いいのですか? テンネル家へ提供するはずだった商品を我が家で使用しても大丈夫でしょうか?」