「つまらないなあ……」


あれから暇を潰そうと屋敷内を散策してみたが、人っ子一人いやしない。それもそうか、今はあの大広間で婚活パーティ中だもんな!

……なんて現実逃避をしてみたはいいが、そうしたところで現状は何一つ変わりやしない

そう、今私は絶賛迷子中なのだ

だってこの屋敷、無駄に広すぎる。こんな造りにした家主がいけない

ぶつくさと文句を垂れながら、元来た道を探す為私は躍起になっていた。だから、一つの影が後ろに迫っていることに気付かなかったんだ



「えっと……何処から来たんだっけ、あっち?それともこっち?」

「おやおや、こんな所で何をしておいでですか?」

「…っ!?」

ー刹那、私に向けられた僅かな殺気が頬を掠める

危険を察知した私は慌てて距離を取ろうとするが、


「……逃がすとお思いで?」


腕を掴まれてしまった


「…………」

「今度はだんまりですか。良いでしょう、悠!」


黙るも何も、初対面であんな殺気を向けられては反射的に逃げてしまうのも無理はないだろう!?

心の中で持ちうる限りの罵詈雑言を目の前の男に浴びせていると、男の後ろからさらに男が飛び出してきた


「あ〜?何、幸」

「遅いですよ全く。……いえ、この方があんまりにも怪しく屋敷内をうろちょろしているもので、何かしでかさないかと心配だったんです」

「このチビが?」


二人まとめて地獄に沈めてやろうかと言いかけた口を慌てて噤んだ。良く良く見てみれば、目の前の男達は先程の大広間で偉そうにふんぞり返っていた奴らじゃないか。あれ、もうパーティは終わったのかな、今日はついてないなあと目の前の事柄からそっと思考を……

「今度は現実逃避ですか?忙しない方ですね」

逸らせるはずも無く。

はてさて、一体どうやってこの場を切り抜けようかと考えあぐねていると

「貴方、見た限りこの招宴にご参加なされてる方では無いですよね?何故ここに?」

……そうだった、この宴が嫌でしょうがなく、鬼の嫁になる位ならばと男の格好で参加していたのをすっかり忘れていた。


「おい、早く何か喋れよ。口も聞けねぇってのか?」

「……すみません、屋敷の清掃を任された者なんですが、まだ入って日が浅いもので……」

元々の男勝りな性格も相まって、中々上手く演じられたと思う。その証拠に、

「そうだったんですね!すみません……行き過ぎた勘違いでした」

「また早とちり〜?いい加減にしろよ幸」

「煩いですね、貴方に言われたくありません」


もう既に私の事なんて蚊帳の外で、二人で口論を始めている。こいつらが馬鹿で助かったと胸を撫で下ろし、ほっと一息ついた

「あの、僕、仕事があるので……」

「ああ!引き留めてしまって申し訳ありません」

「いえ!では」

また何か言われぬ内にと、足早にその場を後にした








「……なあ、あれって、」

「……ええ、恐らくは。何が目的かは知りませんがね」