ふいに零が口を開いた。
「三咲、もっと頼ってくれていいんだよ。」
突然の零の言葉に、私はすぐ返事が出来なかった。
「じゃ、今日はゆっくり寝ろよ。おやすみ。」
そう言って零は自転車に乗って帰って行った。夕日はすっかり沈んで、辺りは暗かった。

 「ただいま」
心なしか小さな声で呟く。
「おかえり」
母はリビングのテーブルに腰掛けて本を読んでいた。父は相変わらず黙ってソファでニュースを見ている。テーブルには私の晩ご飯が並べられている。
「倒れた女の子大丈夫だった?」
私は一瞬ドキッとしたけど、すぐに冷静になった。そうだ、先生は嘘の連絡をしてくれてたんだった。
「大丈夫だったよ。すぐ良くなったけど、念のためお家まで送ってきた。」
「そう、それなら良かった。優しいね、三咲は。」
「たまたま居合わせただけだよ。」
私が帰ってくる前にもきっと両親の間で何かあったんだろう。母はものすごく疲れてる。いや、やつれてるといった方が正しいだろうか。そのまま母と会話しながら、晩ご飯を食べた。いつもの母の味でおいしいけど、いつものようにおいしいと思えない、何とも言えない感情が自分の中に渦巻いていた。