「小町さん」と、乙和くんの友達である小山くんに話しかけられたのは、体育が終わった休み時間だった。

その近くに大好きな乙和くんはいなく。

乙和くんがいない時に小山くんに話しかけられたのは、これが初めてで。
少し小走り気味に近づいてきた小山くんは、「ごめん、今いい?」と、私に聞いてきた。


何か私に用事だろうか?と、うん、と、頷いた。


「ごめん、本当に悪気はなかったんだけど」


申し訳無さそうに謝ってくる小山くんに、〝何が?〟と心の中で思った。
小山くんが私に、悪いことをしたの?


「え?」

「さっき、クラスの奴が、乙和の頭にボールぶつけちゃって。あいつ今保健室にいるんだよ」

「…え!?」


ボールが、頭に?!
そう言えば野球をするって言っていた…。
その野球ボールが、乙和くんの頭に当たったということ?

保健室にいるって…。


「だ、大丈夫なの…?」


私に謝ってきた小山くんは、「打撲みたいなんになって…、気は失ったりはないけど、ボール硬いから…」と、眉を下げ。


硬い…。
硬いボールが、頭に当たった…。
乙和くんは大丈夫なのかと、不安で仕方なくて。
すごく申し訳なさそうにする小山くんに、保健室行ってくる、と言おうとした時だった。



「だからもう大丈夫だって!」


と、大好きな乙和くんの声が聞こえ。
私と小山くんは、その声の方へ振り向いた。
そこには教室の方に向かってくる恋人がいて。
その恋人の横には「マジでごめん!!」と何度も何度も謝るクラスメイトの男の子がいた。


それに気づいた小山くんが、「大丈夫なのか?」と掛けよる。


私も、慌てて乙和くんに駆け寄った。

氷で額を冷やしている乙和くんは、「大丈夫だって、そんな強くなかったし」と、笑っていた。

笑う表情を見てホッとし…。
私に気づいた乙和くんは、「あ、はる。体育お疲れさま」といつも通りに笑った。


「とわくん、ボールあたったって…」

「ああ、見て。全然平気」


にっこりと笑った乙和くんは、額から氷を遠のけ、綺麗な肌を私に見せてくれた。
確かに外傷はなく。


「大袈裟だから、ほんと」

「でも、すごい音しただろ!」

「もう大丈夫だって」

「絶対病院いけよ!」

「分かった分かった」



何度も謝るクラスメイトの男の子に、乙和くんは笑いながら少し呆れた様子だった。


本当に、何事もないみたいだけど。


でも、当たったのは頭らしいから。


「乙和くん……」


不安気味に乙和くんの名前を呼べば、「…わかったよ、ちゃんと行くから。そんな不安な顔しないで大丈夫だから」と、乙和くんは優しく私の頭を撫でた。