『おはようございます。佐藤かな先生ですか?』
「はい。」
「私は良子の母です。このたびは大変娘がお世話になりました。」
良子ちゃんのお母さん?
看護学校のお金を出してくれたという。
確か良子ちゃんは、家に居場所がないとかなんとか言っていたので、てっきりヤンチャな感じのお母さんだと思っていた。
とてもそんな風には見えなくて、苦労して彼女を育ててきたのか、顔は疲れて服装はあまり派手ではない恰好をしていた。
そしてその隣にいた女性も私に頭を下げた。
『初めまして。森良子の通う看護学校で教員をしています野村と申します。
この度は彼女の相談に乗っていただき、ありがとうございました。
全て彼女から聞いています。』
「そうですか。あの、今日は野村先生もお母さまもおそろいで・・・」
『彼女の話を聞いて、すぐにでも診察をしてほしく、また病状から入院を覚悟でここに参った次第です。』
そうだったんだ。それで一人でなく三人で。
「良子ちゃん、覚悟はできてるのかな?」
『はい、野村先生に話して、学校はどうなるかわからないけど、これからのことは後で考えて、今は病院へ行くことを決めました。それで、母にも相談するように言われて・・・
昨夜電話をしたら、飛んできてくれて。』
『本当に以前ここで入院しているときも、この病院では大変お世話になりました。
良子は反抗期で、起きている時間に来ると、恐ろしく怒っていましたので、あまり興奮させまいと、夜に来ていたのです。
また家庭もあの当時バタバタしていたのと、昼間に仕事をしていましたので、先生にご挨拶もできませんでした。』
そう話すお母さん。
「いえ、私はその・・・」
『かな先生は、あの時、医者でもあって、患者さんでもあったんだよね?』
と良子ちゃんが舌を出しながら話す。
は、恥ずかしい・・・・たぶんその辺のことも聞いているだろうけど・・・
「今日は一番に診察できるようにと、佐藤先生も石川先生もスタンバイしてるのよ。
良子ちゃん、本当によく覚悟してきてくれたね。ありがとう。」
私は涙が出そうなくらいうれしかったけど、そこは三人を不安にさせまいと、こらえた。



