小さなアパートの扉が開かれる。蓮也の後ろからこっそり中を覗き込むと、大きなサイズなスニーカーやヒールの靴が乱雑に並べられていた。隣にある靴箱には収まり切らない分らしい。蓮也が申し訳なさそうに言った。
「ごめん、狭いし散らかってる」
「あ、全然……」
私がそう答えたとき、部屋の内部から声がした。
「あれ蓮也ー? どーしたのあんた」
短い廊下の奥に見えるリビングらしきところから、ひょこっと女の人の顔が出てきた。私は慌てて頭を下げる。
ロングヘアに少しつり目のキリッとした人。蓮也のお姉さんが目を丸くして私を見た。
「あれ。見たことあるね、えーと」
「あま……藤田咲良です」
「あーそうだ咲良ちゃんだ! へー久しぶりじゃーん!」
お姉さんはニコニコしてこちらに近づいてきた。高校生の時、会ったことのある蓮也のお姉さんは全く変わらない姿でなぜかほっとした。高校の頃、みんなで蓮也の家に遊びに行った時、フレンドリーなお姉さんも混じって遊んだことがあるのだ。
道端で泣きじゃくる私を、蓮也は家に誘ってくれた。迷っている私に、今はお姉さんと二人でアパート暮らしをしていることを教えてくれた。蓮也のお姉さんは会ったことがあったし面白い人だったから、私はお言葉に甘えてお邪魔することに決めたのだ。どうせ行くあてもなかった。
お姉さんは蓮也に不思議そうに尋ねた。
「あんた仕事は?」
「今日は休んだ」
「え!?」
声を上げたのは私だ。仕事を休んだ? が、よく考えてみれば蓮也だって社会人なのだ、仕事があるのが当然。私は彼の服の裾を掴んで言う。
「ご、ごめん。そうだよね、仕事だったよね」
「あー全然いいから。今そんな忙しい時期じゃないし有給余ってるから使いたかったし」
蓮也はそうそっけなく言うと、話題を逸らすように今度はお姉さんに言う。
「つーか姉ちゃんは今日バイト休みっつってなかった? なんで化粧してんの」
「ああ、風邪で休む子がいるから来れないかって店長に頼まれたから急遽働くことに」
「まじか」
蓮也は気まずそうに私を振り返った。てっきりお姉さんがいるものと思って私を誘ったのだ。二人きりになってしまうが、ここでじゃあ帰りますというのもなんだか言いにくい。
……それに、私はもうそういうことを気にする必要はない。だって、離婚しちゃったから。
力なく微笑んでみせる。蓮也は察したようで、私を中へ促した。
「狭いけど。上がって」
「お邪魔します」
私は頭を下げて靴を脱ぐ。お姉さんがじっとこちらを見ているのに気がつく。蓮也は気づいていないのか、何事もないように言った。
「とりあえず荷物そこ置いといたら」
「あ、ごめん場所取るけど……」
「いいよ。こっち」
多くなってしまった荷物を玄関の隅に置かせてもらう。お姉さんが不思議そうに見ているのはこれだ。どう見ても訳ありなのは一目でわかる荷物の量。