勿論父も母も、私たちが同居人状態であることは知らない。

『ならいいんだけど……綾乃は色々調べてもどこにいるかわからないのよ』

 私はそれを聞いてほっと安心する。この報告はいつも私を安堵させる。お姉ちゃんが見つかれば、もしかしたらこの夫婦関係を解消されるかもしれない。そんな恐怖があるのだ。

 蒼一さんはまだ姉を想っているのかもしれないし、どうなるか分からない。

 お姉ちゃんが他に好きな人がいてその人と一緒にいるのなら、どうか見つからず幸せになってて欲しいと思う。

『本当に大丈夫? あんな急に結婚を決めてしまって。私は綾乃ですら結婚相手を勝手に決めるのを反対してたのよ。でも、子供の頃から一緒にいて蒼一さんとは仲良さそうだったから安心してたのに……』

「私は大丈夫だって。蒼一さんはすごく優しいよ、それはお母さんも知ってるでしょ?」

『まあ、蒼一さんはそうだろうけど。ご両親とか……』

「……時間がなんとかしてくれるよ。私も頑張るから」

『辛かったら気にせずいつでも言っていいのよ。帰ってきていいんだから。無理だけはしちゃだめ』

 いつもこうして私を心配してくれる母に、蒼一さんは私の初恋の相手だから大丈夫、と教えてあげようか悩む。でもなんとなく言うのも恥ずかしくて、結局私は言うのを諦めてしまうのだ。

「ありがとう、でも本当に大丈夫だから。あんまりお父さんと喧嘩しないでよ」

 私はそういうと、少し母と会話を交わし電話を切った。一度実家に帰って顔を見せるのがいいかもと思っているのだが、二人がギスギスしてるしちょっと帰りにくいんだよなあ。蒼一さんとのこと色々聞かれても困る、同居人状態なんだから。

 スマホをおこうとして、今度は手元にメッセージが入っているのに気がついた。誰だろうと見てみると、蓮也からだった。

 蒼一さんと街中でばったり会って以降、彼とは音沙汰がない。そういえば連絡しようと思って忘れていたな。

「なんだろう」

 操作して中身を見てみる。

 相変わらず絵文字も少なめの蓮也らしい文章で、最近はどうしてるかという心配の言葉と、時間がある時に飯でも行こう、という誘いが書かれていた。

「なんかいろんな人に心配されてるなあ」

 自分でも呆れて言う。そりゃ結婚の流れだけを見ればしょうがないのか。

 とりあえず私は毎日穏やかに過ごしていることを文章で打つ。そして、食事の誘いも暇していることが多いので是非、と返事しようとして指を止めた。

 私と蒼一さんは同居人状態であると言っても、書類上は夫婦だ。妻でありながら、他の男性と二人きりで食事はよくないのでは? もちろん蓮也は仲のいい友達だけれど、知らない人から見たらあまり良くないかもしれない。