片想い婚

「うまくいきそう?」

「……うん、ちゃんと話した。私の気持ちも伝えて、蒼一さんの気持ちも伝えてもらった」

 蓮也にこんなことを言うのは何だか心苦しかった。でも隠すのはもっと残酷なことなので、私はしっかり彼の目を見て告げた。

 蓮也も視線を逸らすことなくじっと私を見ている。いつだって私に正直にぶつかってきてくれた彼のそんな顔を見るのは、何だか辛かった。

 蓮也が何度か小さく頷く。

「……そっか、そうだったのか。よかった。俺、余計なことしちゃったりしたかも。蒼一って人にも謝っといて」

「え?」

「咲良」

 蓮也が低い声で私を呼んだ。つい無意識に背筋が伸びるような呼び声だった。彼はわずかに口角を上げて、私に伝えてくれた。

「本当に、好きだったよ」

 真っ直ぐ言ってくれたそんな言葉を聞いてぐっと胸が苦しくなる。なんて答えていいかわからなかった。なぜか私が泣きそうになったのを必死に堪える、私が泣く番なんかじゃない。

 昔からずっと仲良くしてくれた唯一の異性の友達だった。幼馴染みたいな感じでずっと隣にいたけど、そんな彼の気持ちに気づかなかった自分の鈍さが憎い。

 私にくるりと背を向けて立ち去ろうとする蓮也に、慌てて声をかけた。

「蓮也、ありがとう!
 いつも話聞いてくれて……背中を押してくれたから。感謝してる。本当にありがとう!」

 そういうと、進みかけた足がぴたりと止まった。ゆっくり彼が振り返る。少し鼻を赤くした短髪の彼は、白い歯を出して笑った。

「もう離婚とかすんなよ」

 ふざけたようにそう言うと、蓮也は足早にそこから去っていった。彼の後ろ姿が見えなくなるまでじっと見送る。
 
 気持ちを伝えないと後悔するよ、と言ってくれた蓮也の言葉を思い出す。あれほど説得力のあるセリフもない。彼はちゃんと私に気持ちを伝えてくれていたんだから。

 いつかきっと、またどこかで会えた時、私も彼もお互い幸せでありたいと心から思った。

「咲良ちゃん?」

 背後から声がする。振り返ると蒼一さんが玄関から出てきたところだった。私が持つ荷物を見てすぐに察したのか、すっとカバンを受け取りながら言った。

「蓮也くん、来てくれたんだ」

「はい、私の親に住所聞いたみたいで。届けてくれました」

「僕もお礼言わなきゃいけなかったのにな。昨日失礼な態度取った」

「余計なことしたのかもって、蒼一さんに謝っといてって言われました」

 言われたことをそのまま伝えると、蒼一さんは何やら思い当たる節があるらしくああ、と小さく呟いた。何かを思い出しているようにぼんやり上を見上げる。

 私は首を傾げて詳しく聞こうと思ったけれど、あえて聞かないことにした。二人の間で何かがあったのかもしれない。