「その、……今日、クリスマスってよ」
何回もシミュレーションした言葉。
「……しってる」
その言葉は、すでに今日何度も聞いたはずなのに。
どこか期待を含んだ、溶けるような優しい声で紡がれたせいで、これまでとは全然響きが違っていて。
「だからさ、────」
緊張と、期待と、不安と。
色々な感情が混ざり合った声は、決して流暢とは言えず、これまでのシミュレーションはひとつも役に立たなかった。
でも脳内のシミュレーションには、笑顔で頷く水原なんていなかったんだから、どんなにカッコ悪くても現実の結果が一番で。
……佑香にもお礼しないとな。
なんだかんだで事を動かすきっかけになった姉に、お土産でも買っていこうかなと心に決めたのだった。
ちなみに、一人で帰った佑香を不思議に思った母がどうしたのかと尋ね、それに対してぺらぺらと今日のあらましを全て喋ったらしく。
家に着いた瞬間に家族皆からクラッカーを鳴らされたことは、一生忘れないだろう。
もちろん佑香とは喧嘩になり、買ってきたお土産を巡ってやるやらないの一悶着があったのは言うまでもない。
〜fin〜



