ぼんやりと窓の外を眺めていると、車の窓

に映るもう一人の自分と目が合う。相変わら

ず可愛げの無い顔に、うんざりして目を逸ら

す。隣で運転する母の、ため息が聞こえた気

がした。それから暫くの間、車のエンジン音

だけが、私の耳を覆っていた。その沈黙を破

ったのは、母の冷めた声だった。



「笑、もうすぐ着くわよ」



新しい、学校か。あと数ヶ月もすれば、卒業

して、中学生だ。これからまだまだ続くと思

うと、笑顔を作るのが面倒くさくなってく

る。怒ることだって、笑うことだって、泣く

ことだって、私にとっては全部嘘だから。ど

うしよう。人気者の『笑ちゃん』を、続ける

べきなのかな。担任の先生に会うまで自問を

続けたけれど、結局たどり着いた答えは変わ

らなかった。『笑ちゃん』をやめる勇気は出

なかった。

         *

 担任の先生の後ろ姿を追いかけて、立ち止

まったのは『6ー2』と書かれた教室。クラス

メイトになるであろう人たちの、視線が痛

い。



「皆おはよう。いいニュースだよ」

「なになにー?熊ちゃんに彼女でもできたの

ー?」

「がっはっは。そりゃいいニュースだな。だ

が、残念。俺はまだ、フリーだよ。今年も、

クリスマスには間に合わなさそうだよ…」

「熊ちゃん、クリぼっちー」



担任のあだ名は、熊ちゃんというのか。見た

目からはイメージがつかないあだ名だなぁ。



「俺の話はどうでもいいんだよ。正解は…こ

れだ!さぁ、中に入っておいで」



先生が、こちらに向かって手招きなんてする

ものだから、再び視線を浴びることになっ

た。仕方なく、重たい足をなんとか動かし

て、教室の中へと進む。



「おお!転校生か?!」

「可愛い…」

「俺、後で話しかけるー」



こういうの、凄く嫌だ。だけど、それを顔に

出すことはできない。ましてや、口に出すこ

となんてもっての外だ。



「はじめまして、櫻井 笑です。東京から来ま

した。短い間ですが、よろしくお願いしま

す」



自分の感情を押し殺して、笑顔を作った。作

りものの笑いなら、得意だから。



「それじゃあ、櫻井は…高橋の隣が空いてい

るから、そこに座れー。授業始めるぞー」



その日は、沢山の人たちに囲まれたが、上手

くかわして乗り切った。