俺とゆづちゃんは、再び茉莉の姿を探し

た。屋上から順に下の階に降りて行き、よう

やく、中庭の花壇で茉莉を見つけた。



「あの、茉莉さんですよね?」

「はい、そうですが。上履きの色からして、

先輩ですよね。何の御用でしょうか」

「急に話しかけて、すまない。俺は三年の、

陽太だ」

「私は二年の、清水結月です」

「俺たち、三年の湊と友達なんだけど。櫻井

湊っていう奴のこと、知ってる?超イケメ

ン」

「はい、知っていますよ。湊君が、どうかし

たんですか?」

「ちょっと、君と話したそうにしていてね。

一度、会ってもらえないかな?」

「え…。そんな急に言われても、何を話した

らいいか分からない…ですよ」

「フフッ。湊と同じことを、言うんだね」

「本当に、似ていらっしゃいますねぇ」

「まぁ、君は来てくれるだけでいいから」



茉莉の返事も待たずに、湊の待つ屋上まで、

茉莉の腕を引いて行った。屋上まで階段を一

気に駆け上がり、勢い良くドアを押し開け

た。



「茉莉ちゃん…」

「湊くん…、久しぶり」

「俺らは去るんで、後は若いお二人で」



俺とゆづちゃんは、居なくなるフリをしつ

つ、ドアの後ろに隠れて様子を窺っていた。



「あのさ、あのときはイジワルなこと言っ

て、ごめんね。すぐにでも謝りたかったんだ

けど、茉莉と会えなくなるなんて、思わなく

て。ずっと、仲直りしたくて、後悔してたん

だ」

「茉莉の方こそ、ごめん。湊くんが謝ろうと

してくれていたの、知ってたんだよ。でも、

意地張って、逃げるみたいに、何も言わずに

引っ越しちゃった」

「そっか、良かった。じゃあさ、仲直りの印

にメロンパンをあげるよ。茉莉ちゃん、昔か

らメロンパン好きだっただろ?」「ありがと

う」

「それとさ、俺、茉莉ちゃんのこと好きだ

よ。昔から。今も」



ドンッ。いきなり、閉まっていたはずのドア

が開いて、四人の視線が痛いほど絡み合っ 

た。まずい。盗み聞きしていたのがバレてし

まった。デジャブ…。湊の奴が突然凄いこと

言うものだから、驚いて、もたれ掛かってい

たドアを押してしまったようだ。今回こそ

は、逃げようにも逃げられなかった。行く手

には湊、背後にはゆづちゃんが立ちはだかっ

ていたのだから。



「おい、陽太。何でいるんだよ。盗み聞きと

は、いい度胸だな」

「ごめんなさい。なんとかして陽太先輩を連

れて行こうとしたのですが、どうしても動こ

うとしなくて」

「ちょっと待て、ゆづちゃん。さり気なく俺

に罪を擦り付けようとするの、やめてくれな

いかな?確かに俺が九割くらい悪かったけど

さぁ。すまんよ、湊、茉莉。それで、結局の

ところ茉莉の返事は?超気になるんだけど」

「陽太先輩に、全く反省の様子が見られない

のですが。いくら先輩のお友達と言えども、

さすがにご迷惑ですよ。さぁ、本気で帰りま

すよ。湊先輩、茉莉さん、お騒がせしまし

た。失礼します」

「湊ー、後でどうなったか教えろよー」



俺は、半ば強制的に連れて行かれた。

 後日、湊から連絡があり、茉莉と付き合う

ことになったと分かった。これで茉莉の願い

が叶ったため、オト研の任務完了。湊も、長

年の想いが実って、以前に増して輝かしい笑

顔を振り撒くようになった。よし、今日は早

く家に帰って、漫画でも読みながらゴロゴロ

するとしよう。