辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2

「サリーシャ、まだ怖い?」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「行けるか?」
「はい。閣下が一緒なら」

 目の前に差し出されたごつごつした手に、そっと自分の手を重ねる。
 その手はサリーシャが知るどの手よりも、大きくて、優しくて、そして、力強い。
 

 一年ぶりに足を踏み入れたその空間は、あの時と何ら変わらなかった。
 記憶の中にあるぎっしりと精緻な絵が描かれた壁や天井。それらを彩る真っ白な彫刻と金箔で装飾された柱。目に写るのは何一つ変わらない光景。
 ただ、絨毯だけは全面が張り替えられていた。きっと、サリーシャの血が落ちなかったのだろう。それ以外は、あんな事件が起こったとは想像もつかないほど、事件前と同じ佇まいだった。

「大丈夫か?」
「はい、平気です」

 セシリオはエスコートするサリーシャを心配そうに窺い見る。サリーシャは顔を上げて口の端を上げて見せた。