フィリップ殿下の結婚式が行われるちょうど二週間前の日、セシリオ達一行はアハマスを発った。使うのは前回と同じ、豪華な八頭立ての馬車だ。
 出発から丸一日、アハマスの中心部を抜けると、そこはデニーリ地区になる。サリーシャは窓からその景色を眺めた。街道から見える一面の畑には、なにかの作物が植えられているようで、一面が緑色になっているのが見えた。

「あれは何かしら?」

 セシリオはサリーシャの言葉に釣られるように同じ窓から外を覗き込んだ。畑の中で作業していた農夫達が手を止めて、滅多に目にすることがないような豪華な馬車の一行が通りすぎるのを眺めている。

「なんだろうな? ラディッシュかな? デニーリ地区は土地が肥沃だから、農家によっては二毛作を取り入れている。小麦はバクガの被害が酷かったが、これは無事に収穫できるといいのだが……」

 移り行く畑を見つめ、セシリオは目を細めた。