サリーシャがプランシェへと旅立つ日、セシリオは忙しい執務の合間を縫ってサリーシャを見送りに来てくれた。
 アハマス領主館の前にはサリーシャの出発に合わせて用意された馬車が停まっている。出発を前に、馬達は落ち着かない様子で(いなな)き、蹄で大地を蹴っていた。
 
 サリーシャは馬車の前に立つと、後ろを振り返った。

「閣下、行って参ります」
「ああ、気を付けて。姉上と義兄上によろしく伝えてくれ」
「はい」

 笑顔で頷くとこちらの方にセシリオの手が伸びてきたので、サリーシャはその手に摺り寄る。セシリオは愛おし気に目を細めると親指でサリーシャの頬を撫でた。

「俺も仕事を片付けたら、出来るだけ早めにそちらに行く」
「はい」