雅志(まさし)くーん!こっちこっち!」

薄く青い空の中で柔らかな光が全てを照らすこの時間、自分と同じ制服を来た者達でごった返す通学路に鈴の鳴るような可愛らしい声が響き渡る。この数ヶ月間ですっかり聞き慣れた声だ。
もはやきょろきょろと辺りを見回す必要も無い。迷いなく一点を見つめると、案の定そこには彼女がいた。

「何もあんなでかい声で呼ばなくても……」

思わず溜息混じりでそう呟いてしまうが、別に今に始まったことでもない。俺が彼女と特別な関係になった日から続くやり取り。もはや慣れを通り越して日常的なものになっていたが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。周囲からの生暖かい視線やら羨望の目やら殺意の篭った目やらを一身に浴びてあの人の元へと駆け寄る。

「おはよ、雅志くん」
「おはようございます、刹奈(せつな)先輩……やっぱりそれ、辞めません?目立ってますよ、俺達」
「やーだ」

モデルのようにくびれた腰に手を当てながら上目遣いで突っぱねられるとどうにも強く出れない。本人の美しい顔立ちと猫のような大きい切れ長の瞳も相まって余計に雰囲気を感じさせる。やっぱりこう見てみると可愛い……その分性格はあまりよろしくないのだか。

「こらっ。女の子の性格にそう言及するんじゃないよ」
「……何で分かったんですか?」
「女の勘、ってヤツ?」

女の勘、か。確かに女の子はそういった事への察知能力がまともじゃないけれど、この人がそういう俗なくくりに入るのは何故か違和感がある。彼女の「普通とは違います」オーラがそうさせているのか、はたまた俺の勝手な思い込みか。