さっきの場所から離れて人通りが少ない場所に来ると、双見は僕の手をそっと離す。

「ま〜た魚住、断れなかったの〜?あんなの、結構です、って言って、ス〜、の、スススッ、よ!」

 双見に涼しい顔でそんなことを言われなくても、それができるくらいならとっくにやっている。
 僕だって、あんな人に捕まりたくなかった。今日は楽しみにしていたデートなんだから。
 でも…

「ごめん、双見…」

…双見を心配させてしまったから。

「ね。」

 双見は僕の顔がよく見えるようにか、真正面に立つ。

「…私と、あのお姉さん、どっちが大事?」

 真面目な顔だ。
 僕の答えは決まりきっている。

「決まってる、双見のほうが大事だよっ!でも…」

 双見は僕の答えを聞いて笑う。

「魚住の中で、ちゃんと決まっているんじゃないの。じゃあ、あんな人と時間取るの、もったいないと思わない??」

 僕は黙って頷く。

「この前来たっていう勧誘の電話だって、そんなのとより私との電話のほうが、まだいいと思うけど…?」

 そう言って僕を少し上目遣いに見る双見。
 何度も頷く僕。

 双見が言うことは分かる。でも、どうしたらそうできるんだろう?

「魚住は、一生懸命に聞きすぎ。ああいう人たちの言葉はそんなに聞かなくていいの。あの人たちはね、魚住のことなんて、時間なんて、心配してくれないんだよ?例えば私とのデートとか電話とかがあったって、気にしてなんてくれないんだから。」

 双見は言い聞かせるように僕に言う。

 …そうだ。
 あの人たちより双見のほうが大事だし、あの人たちは僕が忙しいのなんか…

「そ、れ、に…魚住がそんなんじゃ私、嫉妬しちゃうよ?」

「…。」

「だから次は、しっかり断ってね…?」

 双見は、さっきのお姉さんにしたのと同じ笑顔で僕に笑う。

 …だからか…アンケートのお姉さんへの、こんな感じの怖い笑顔……


 ちょっぴり嫉妬深い双見は、嫉妬するとちょっぴり怖い、僕の彼女だ。