眠りすぎて頭がぼーっとしているのか、途中から来画さんとの間に
薄いモヤを挟んで会話しているようなぼんやりした感覚だった。
 聞こえているけど頭にすっと入ってこないと言うか。変な感じ。

 自分の会話を自分じゃない誰か別人の目線で聞いているみたいな。

「それじゃ連絡待ってます。できるだけ予定開けておくので」
「は、はい」
「また緊張してますか」
「……いえ。大丈夫です」
「もっと一緒に居たいけどここは押さえて帰ります」
「次はもっと楽しく過ごせる場所に行きたいですね」
「楽しく。映画館とか水族館とか?」
「その辺」
「調べておきます。あと、家族の事は気にしないでください。
何であろうと貴方を傷つけていい訳ではないから」

 その言葉にきちんとした返事もできないまま曖昧にして。
 来画さんと別れて特にすることもなく大人しく帰宅。

 来画さんとは付かず離れずのままで現状維持。
 誰からも喜ばれない道を選んだ。

 けど、不思議とそれほど後悔は無い。


 部屋でぼんやりしていたけど不意にスマホを手にして電話をかける。

『なに?実花里。お母さんの声が聞きたくなった?』
「そ、そうじゃなくて。今いい?」
『どうぞ。丁度休憩中だから』
「私、ご家族には反対されてるけど来画さんと仲良くしてる。
お母さんは駄目って言うけど曽我さんとも仲良くしてる」
『そう。それで?』
「怒ったりしない?」
『そうね。まあ、結婚するなら守屋君にしておくべきじゃない?』
「そこまでじゃない」
『いい加減大人になりなさい。さっさと付き合って体の関係も持って
しまえばいいの。そうすれば女としての生き方が見えてくるかもね』
「お母さんが見た女の生き方がこれ?」
『私には女優の才能があったから貴方とは少し違うけど。基本は一緒』
「最近自分でいる時間が減ってる気がする。また病院に行くべきかな」
『実花里。私が唯一心から心配しているのは貴方だけ。怖いかも知れないけど
新しい環境に飛び込んでみなさい、新しい自分に会えるはず』

 新しい自分?それってもう今の私は不要って意味?

「大丈夫。私、新しい自分はもう要らないの。今の自分が好きだから」
『そう?』
「それより今度詩流と来画と3人で会いたいんだけど詩流が避けるの。
どうにか出来ないかな?」
『会ってどうするの?懐かしい同窓会でもする気?』
「そんな所」
『私が詩流を夕食に招待するから貴方は守屋君を呼んで来なさい』
「うん。そうする」
『この2人でなくても男は居るんだから囚われないようにね』
「分かってる。お母さんも仕事がんばってね」

 電話を終えると強い眠気が襲ってきて。ベッドに寝転ぶとすぐに意識が飛んだ。
あれだけ堕落してずっと寝ていたのにそれでもまだ眠いなんて。
 世の中は不思議なことが多い。




「やっと帰ってきた。ちゃんと話を聞いてお兄ちゃん」
「聞いたよ。全ては俺のためにしてるんだろ」
「だったらどうして連絡してくれないの」
「今までもそんな頻繁に連絡はしなかった。それに仕事も忙しい」
「彼女と会う時間はあるのに?あの人でなくてもお兄ちゃんなら
もっといい女性が居るよ?なんでそんな拘るの?」
「また後をつけたのか?やめろって言ったろ。
彼女と一緒にいると欠けた過去を思い出せる気がする。
俺はもう無力な子どもじゃないんだ。どうあろうと対処できる」
「どうして?今のままは嫌なの?」
「昔の弱い自分のまま変わってないと思いながら生きるなんて嫌だ」
「お兄ちゃん」
「例え俺が罪を犯していても、或いは彼女が犯していても」