「……あ、もうこんな時間」

 作業に没頭していたみたいで気づけばもう9時近くて。
スマホを確認すると「もうすぐ帰る」と10分くらい前に連絡があった。
 返信をして真っ暗でなにもないリビングに向かう。

 明かりを付けて無音が何となく怖くてテレビをつけると丁度
曽我さんの出ているドラマが映った。

 二世俳優と言われても演技にはストイックで評価は高い。
二枚目三枚目、コメディ、狂気の人。どんな役でも無理なくハマってる。
 私は演じる才能が全く無いから純粋に尊敬してしまう。

 けど、そのせいか本心が何処かわからない。

 敢えて知られないようにはぐらかされている気がする。
私を助けようとするのも彼なりの意味があるのかも。

 レポートを終わらせてから来画さんから貰った昔の事件のまとめを読んだ。

 パーティに乗じて子ども3人が誘拐され3日後に発見される。
女の子は気を失っていて間のことは何も覚えていないと言い、
男の子は錯乱状態で暫く入院その後無事に退院するも記憶なし。
 一番年上の男の子も頑なに何も覚えてないと言った。

 相手が子どもとあって無理に聞き出すことも出来なかった。

 犯人は残された物から推測して男で恐らくは2人組。
 お金のやりとりがあったはずだが3人の親はそれを否定。

 結局3人の親への嫌がらせだったのではとされ犯人不明の未解決。
 3日間何があったのかも今現在聞き出せていない。

「お母さんの元へ帰る以外で何が出来るんだろ」

 今まで通りに大学と仕事をこなす日々で良い?それとも過去をもっと
探るべき?私自身の為にそっとしておいたほうが良い気がするけど。

 ああ、だめだ。お腹が空いて考えがまとまらない。

「ただいま……」
「あ。お帰りなさい」
「何をしてるのか聞いても良い?」
「これはヨガの瞑想のポーズです。お客さんから聞いたんです。
これをすると精神が集中できて神秘のオーラが舞い降りて神様の」
「食事する?」
「する」

 足を広げ両手を上げてのポーズをしていたら曽我さん帰宅。
びっくりした顔をするがすぐに袋を机において食事の用意をしてくれる。 
 やっぱり瞑想よりもご飯がいい。急いで席について頂く。

「ん。ドラマ観てたんだ」
「この部屋は何もないから少し寂しくて」
「何か雑誌でも買ってくるよ」
「ゲームはどう?仕事先の人が一緒にゲームしようって
さそってくれて。詩流も一緒にやりましょ」
「現実で十分満足してるから。ゲームはその人と楽しんで」
「上手そうなのに。ジョブを選んでそれで武器が違ってて
グループで戦うんですよ。違うチームと!」
「へえ。面白そうだね。頑張ってね」
「貴方が演技上手でも今のは心にもないセリフだって分かるんだから」
「心にもないセリフを言ったからね」
「もう」

 一緒に遊ぶのも楽しいと思うのに。乗ってくれない。
遊んでそうで実はオフになると電源が切れたみたいに何もしない。
 気だるそうに寝ていてとても俳優してる人には見えない。

 流石に私と出かける時はスイッチを入れるけど。
 今は仕事終わりだから?或いは家だからかテンション低い。

 そうだ。

 あのパーティの時も退屈そうに窓際に居て、私が近づいたらやっと
ニコッと笑って。
 でも、私の隣に来画さんが来るとまたすぐ視線が外に行った。

「実花里?」
「んんっからぁい」
「聞いてた?それ辛いよって」
「聞いてなかったぁ」

 美味しいけどピリ辛な夕飯を終えて先にお風呂に入って。
出てくるとリビングのソファにぼんやり座っている彼が居た。
テレビはつけっぱなしだけどみている様子はない。

 隣に座るとちょっとびっくりした様子だけど、すぐ笑顔。

「少しは落ち着いた?」
「多分。1人だと考え込んでしまうから」
「何日でも居ていいから。無理強いはしないけど」
「詩流ってグイグイ来るタイプに見せかけて来ないですよね」

 いざって時は助けようと手を伸ばしてくれるけど。

「そんなタイプに見える……、か」
「他の女性には出来ても私にはきない?それが貴方の素なの?それも演技?」
「分からない。演じすぎて自分が分からない時がある」
「貴方にも曖昧な所があるんだ」

 私も、来画さんもそして曽我さんも。過去の事件が引き金かは
わからないけれどお互いに自分の中で曖昧になっている部分がある。
 そんなのは誰にでもあること?なのかもしれないけど。

 私達は共通してる気がしてる。

「自分でそうしてる。そう、しないと。いけないと思った」
「どうして?」
「……」
「もしかして何か私に隠している事ある?」

 欠けた記憶の何かを知っている、とか。

「あるよ。このままずっと隠し続ける。恩着せがましく
君のためにとは言わない。全ては自分のため。
どんな形であれ実花里と一緒に居たい我儘を叶えるため」
「……」
「それくらいずっと君に恋してる」
「詩流」
「本音をシラフで言うのはキツいよ。はあ。……酒飲みたい」
「あの」
「今のは聞かなかった事にして欲しい。まだそんな事言うタイミング
じゃないのは分かってるから。返事は求めてないんだ」
「……ん。じゃあ、空気変える話題して」
「どういうのがいい?」
「共演してる役者さんの裏話とか」
「エゲツないのとやばいのと怖いの、どれがいい?」
「楽しいのはないんだ…」

 役者さんの闇は深い。