未経験なので詳細は分からないけど少なくとも痛いとか
気持ちいいとかの感想があるというのは知っている。だけど
 何の余韻もなければ失ったという感覚もない。

 食事をして曽我さんに送ってもらい自分の部屋に戻る。
 真っ先にシャワーを浴びた時に体を見るけど変化なし。

「……あ」

 と、思ったけど胸にぽつんと赤いアトがあった。

 季節的に虫刺されやかぶれじゃないとしたら、来画さんに何か
されたって事?本人に何をしたのか聞いたら不味いよね。
 
 お昼くらいには事情を聞きに来ると言っていたけど。
 もう病院を出たという報告はしてある。

 それも気にはなるけれど。

「明日迎えに来るから」
「詩流」
「落ち着くまでは1人に出来ない」
「私のためにどうして貴方が必死になるの?何の得があるの?」
「実花里が大事だから」
「でもお母さんに怒られるかも」
「大人になって独立するんだろ。親は関係ない。
大変な時に君を守ってはくれないならなおさら」
「……」
「大人しくいい子にしてるんだよ」

 その場できっぱり断ることも受け入れることも出来なかった。
結局明日から暫く彼の部屋に行くことになる。……んだよね。これは。
 お母さんには怖くてメールできないし相手からも何もない。

 曽我さんとは遊んでも付き合うなって言う言葉を無視するのが怖い。
今までお母さんの言いつけを守らなかった事はなかった。
でも、パニックになっているのは確かで誰かの助けを求めたいのも事実。
 
 さっぱりした所でそのままベッドに倒れ込む。
 もうレポートなんて頭にないし仕事は事情を話してお休みを貰った。


「私は何がしたいの……?」

 疲れてるのかな?変な質問をしてる。そんなの決まってるのに。
大学を出て、仕事して、いい人を見つけて結婚して子どもを産んで。
 おばあちゃんになる。

 ささやかな幸せを感じながら召される。これ以上ない最高のゴール。

 なんだけど。何でか前途多難。


 どれくらいベッドに寝転んでいたのか。スマホの着信音で目がさめて
起き上がる。カバンに入れてあったと思ったけどカバンが見つからない。
 あれ?と思ったら何だか部屋がおかしい事に気づく。

 部屋にはベッドと花瓶に入った薔薇しかない。

 それも貰った真っ赤な薔薇ではなく、くすんで紫がかったベージュみたいな
珍しい色。なにかの本で見たことがある。

 品種は確か……、だめだ、思い出せない。

「私は沢山愛されたい。1人じゃ足りない。多ければ多いほどいい」

 何処からか聴こえる私の声のようだけど違う声。
 これは夢?なの?

「愛してくれたら愛してあげる」

 それにしたってこれは誰の声?誰の願望?

「嫌な夢」

 目がさめると今度こそ自分の部屋できちんとカバンがあって。
その中にはスマホ。着信履歴が残っていて来画さんからだった。
 時間は、お昼をとっくにすぎている。

 何処かで会えるかと聞かれたので近所のカフェを指定した。


「連絡が遅れてすみません」
「いえ」
「それじゃ貴方の行動を教えてもらえますか」
「はい」

 私が覚えているのは曽我さんに連れてきてもらったコテージに来て
レポートを書くはずが人の気配がして外へ逃げて。そこでファンの人に
 見つかって、仕方なく撮影見学に出たところまで。

 なにか怖いものを見た気がするけれど。

 私が悲鳴をあげてその後倒れていたというのは全く記憶にない。
 荷物を確認したけど盗まれたものもなかった。

「あの辺は空き巣被害がたまに出ていたそうなのでもしかしたら
それかもしれないですね。追っかけファンたちは皆シロだったので」
「確かに。私慌てていて鍵きちんと閉め忘れたかもしれません。
倒れていたのもまた貧血を起こしたとかで」
「侵入して貴方を怖がらせる何かがあったのは確かだ」
「私そそっかしいから勘違いかも」

 警察が動いてもし全部勘違いだったら恥ずかしい。
実際誰かを見た訳じゃないのに。でも、確かに音はした。
 ファンじゃなかったなら誰だったんだろう。

「それはそうと。実花里さん」
「は、はいっ」
「そんな怯えなくても良いですよ?
昔の記憶についてはなにか思い出しませんか」
「いいえ特には」

 変な夢や幻聴はあるけど関係しているかどうか。
 そんな事言ったら頭がおかしい女扱いされる。

「曽我さんからはなにか聞きましたか」
「どうして?」
「誘拐された子どもの3人目だから。一番年上だし俺達より
きちんと覚えていると思うんです」
「なにも聞いてないです」

 一瞬驚くけど、考えてみればその方が自然な繋がり。
 曽我さんとは幼い頃から一緒に居たから。

「彼と仲がいいようだから話しをしているとおもったのに」
「曽我さんは気を使って話さないでくれているんだと思います。
私、不安定になりやすくて。迷惑をよくかけるので」
「俺にあんな事言ったのは不安定になったから、ですか」
「あんなこと」
「ここで言うのは流石に恥ずかしいですね。
実花里さん、俺にあんな事しながら甘えた声で何度も」
「だ、だいじょうぶです」
「恥じらう今も可愛い」
「……っ」

 何をしたの言ったの私。