思ってた以上にアルコールが強かったのかな?疲れてた?
曽我さんとお酒を飲んでからの記憶がない。
 幾ら昔から知ってるからって男性の前であまりにも無防備。

 それで目覚めたら朝で知らない部屋のベッドで寝ていた。
 恐らくは高級ホテルのスイートルーム。

 隣に裸の男性が寝ていたらお母さんの事どうこう言えない。

「……わ」

 広いベッドの隣は誰も居なかったけど側に私が好きな赤い薔薇が一輪。
 カードがあったので手にとって見ると。

『ごめんね。お詫びはまたするから。詩流』

 という伝言が達筆な文字で残されていた。

「貴方のお気持ちは嬉しいですよ?でもね、こんな所に置いて
いかれて私はどうしたらいいの?教えて王子様?」

 お詫びなんて要らないから何かしらの説明か指示がほしい。

 どうしようかとちょっと考えて。昨日お風呂に入れてないから
まずはシャワーでも浴びようかと広い部屋を歩いて風呂を探して。
 甘くていい香りのするボディソープ、シャンプー。

「改めましておはよう綺麗な薔薇さん。……ああ、駄目。
お腹すいた。でもこんなホテルで食べたら絶対高いよ。我慢だ」

 綺麗な薔薇より今は何かお腹に入れたいです。
 昨日の夜はフルーツだけだったのを思い出した。

 素敵な部屋で朝を迎えるのはいい気分だけど空腹で
足早にホテルを出る。手には薔薇を持って。
 お礼のメールをして目についたお店でパンを買って食べる。


「今日は甘い良い香りがする……お泊りですか」
「流石ですね。よくお分かりに」
「いえ。服装が昨日と一緒なので」
「はぁっ」

 そうだった。なんて基本的なことに気づかなかった私。
帰ってもいいと思ったけど面倒くさいからってそのまま店へ来た。
 坂江さんからの鋭い指摘に何も返事が出来ず笑って濁す。

 お泊りはしたけど誰かとじゃなくて1人なんだよね。
 なんて説明をする必要ないか。

 上質ないい香りも昼を過ぎてしまえば薄まって消えていく。
 魔法がとけて本来の私に戻ったような少し寂しい気持ち。

「川村さん良かったら今度一緒にゲームしません?
PCはあるって言ってたし。始め方とか教えるんで」
「ぜひ」
「今夜は新しいバイトあるんで無理だけどまた明日にでも」
「え。3つ目?」
「最高で5つ掛け持った事あるんで平気です。
それにこれは短期なんですぐ終わるし」
「そう、なんだ」
「お先です」

 私は入れられるだけお店に入ってるから掛け持つ余裕はない。
聞いた話ではもっと楽で割の良いお仕事があるらしい。今の生き方に
不満はないけれど大学のその後を考えると色々経験したい気もする。

 大きく遅れたけど私だって一人前の大人になりたい。
 堅実なお仕事の真面目な人とのお付き合いはその後でも。ね?
 
  昨日は大学を休んでしまったから今日はきちんと顔を出さないと。
 でも流石に薔薇を持っていったら散ってしまいそうだから帰宅。

 薔薇の手入れをしているとスマホが震える。

『こんばんは。実花里さん』
「こんばんは。まだお仕事中ですか?」
『今帰る所なんですけど先に電話しておきたくて』
「新しい情報があったとか?」

 曽我さんかと思ったら来画さんだ。忙しそうなのに、珍しい。

『情報は更新出来てないんですけど、週末出かけませんか。
調べ物って意味じゃなくて映画とかその辺』
「週末は……出かける予定があって。ごめんなさい」
『そっか。そう、ですよね。こんなギリギリに言っても予定あるか』
「俳優の曽我詩流さんに誘われて遠出して撮影見学に行くんです。
それで空いた時間は一緒にいると思います」
『それってつまり交際中ということ?』

 そうです、と言えば来画さんとは良い距離感のままで居られる?
これ以上踏み込んでしまったら彼の家族も嫌な思いをするから。

 確かめたりはしないだろうしここは嘘をついてでも……。
 
「交際は……してません。大事にはしてもらってます。凄く」

 良い印象のままで終われたかも知れないのに。何で素直に言うの私?

『女優の娘さんだと役者が身近な存在なんだな』
「そうですね。身近です。とても」
『じゃあ次はもっと早く連絡します』
「付き合ってもないのに会いに行くんですよ?そんな女」

 自分でもどう説明していいか分からないのに、流して良いの?

『もしかして弱みを握られて無理やり関係を迫られているとか?』
「曽我さんはそんな酷い人じゃないです」
『付き合いは長そうだから割り切った体の関係?』
「世間知らずで隙だらけの女ですけど結婚するまではそんな事しない」
『本当に?』
「貴方に嘘をついてどうするんです」
『きちんと顔を見て話したかったな。すぐ嘘が見抜ける』
「刑事さん。私は何の容疑者?」
『容疑があるから聞いてるんじゃない。本当は辛い思いをしているのに
脅されて言えないというのなら助けたいから』
「来画さんって根っからの刑事なんですね。真剣に考えてくれて」
『どうしてなのか自分でも分からないけど、君を見た時からずっと
守らないといけないと強く思ってる』
「……私、を?」
『きっと記憶が欠ける前も同じように君を守りたいと思ってたんだ』

 守る?何から?