「はーい。あら、玲奈ちゃん」

 いつもと少しも変わらない護のお母さんの声に、少し緊張が解けた。

「どうぞ、中に入って」

 私は、玄関に向かって足を動かした。

 いつもより歩幅が小さくなってしまう。我ながら、往生際が悪いと思った。

 ええい、もうここまで来てるんだ。

 『おじゃましまーす』と言いながら、玄関の扉を開けると、私は真っ直ぐ護の部屋へ向かった。

 でも、部屋のドアを前にして、再びチュウチョしてしまった。

 どうしよう、また緊張してきちゃった。

 『まーもーるー』って呼ぶだけなのに。

 コンコンコン…

 私は初めて、護の部屋のドアをノックした。

「どーぞー」

 護の声がした。緊張のカケラも感じられない、いつも通りの『どーぞー』だ。

 こっちの気も知らないで。

 だいたい、護が私からの本命チョコをほしがったりするから、こんなドギマギする事態になったんじゃないの!