それから普段通りに聞こえるように、細心の注意を払って、私は尋ねた。

「髪はいつもの床屋?」

「ああ、切ってもらったのは、いつもんとこ。でも、小学校入学してからずっと、『いつも通りで』ってオーダーしてたけど、今回は雑誌の切り抜き持ってって、『これで』ってお願いした。そしたら床屋のおばちゃん、『大きくなったのね』って感激してたわ」

 私も、小学校高学年ぐらいから美容院に行くようになったけれど、それまではそこの床屋に行っていた。

 だから、感激するおばちゃんの顔を容易に想像できて、ぷぷっと笑ってしまった。

「そのメガネはどうしたの? メガネって高いんじゃないの?」

「じいさんが年金から出してくれた」

「えーっ、それはダメでしょ??」

 大丈夫だ。私、いつもみたいに、『あははっ!』と笑えてる。

 でも、そこで護がニヤリと笑った。

「玲奈、こういうの好きだろ?」

 せっかく小さくなったはずの心拍数は、一気に跳ね上がってしまった。