あやかし戦記 千年前の涙

「アサギ!アサギ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ミツヒデは激しく取り乱し、ツヤを驚かせる。ツヤの知るミツヒデは大声を上がることなく、どこか淡々としているからだ。静かになったミツヒデは廃人のように目が虚になり、「アサギ」と失った妻の名前を呼び続けている。

運命の歯車は、ここから大きく歪み出したのだ。



どんな時も共に過ごした家族を失った悲しみは消えることはない。葬儀や七日法要が終わった後も、ツヤとカスミは部屋の隅で溢れる涙を拭った。

しかし、いつまでも泣いていては亡くなった人は極楽浄土に旅立てないと葬儀の際にお坊さんから言われたことを思い出し、ツヤとカスミは少しずつ前を向いていくことを決心した。

「姉さん、あたしが朝ご飯を作るから洗濯お願いできる?」

「いいわよ。昨日貰ったきゅうりがあるから、それも使ってくれない?」

遠くへ旅立ってしまった母親に心配をかけたくない。その一心でツヤは無理をしてでも笑う。それはカスミも同じだった。しかしーーー。

「……またあの人、部屋に籠る気か?」