あやかし戦記 千年前の涙

愛する妻が病に倒れたことで、ミツヒデは取り乱し、腕のいい医者を何人も呼び寄せ、「治してくれ!!」と泣きながら土下座までしていた。しかし、どの医者もアサギの容体を見て首を横に振るばかりである。

「……カスミ……ツヤ……二人は……お母さんの……宝物よ……。お父さんのこと……どうか……お願い……。誕生日……お祝いできなくて……ごめんね……。愛しるわ……」

カスミが十九歳、ツヤが十六歳になった頃、約一年の闘病生活は終わりを迎えた。穏やかな春のある日、アサギはツヤとカスミに見守られながら天国へと旅立った。

「お母さん!私、お母さんがいてくれるなら、誕生日のお祝いなんてどうでもいいの。お祝いのお寿司も、着物も、何もいらない。だから目を開けて、お母さん!」

「母さん、あたしたちの花嫁姿が楽しみって言ったくせに!嘘つき。嘘ついたらダメだって言ったくせに……。母さん、何で母さんが……」

カスミとツヤは泣きじゃくり、たまたま出かけていたミツヒデもアサギが亡くなったことを知ると、その場で滝のような涙を流した。そしてアサギを抱き締め、体を震わせる。