「…じゃあ俺から教えられることなんてないね。」


「え?」


「俺、確かにたくさん女の子抱いたけど…大好きな女の子を抱いたことはない。
というか、そんな機会あってもちょっと自信ないかも」


クソピが無邪気に笑った。


「もうその気持ちがあるだけで、優花ちゃんは幸せだと思うよ。
必ずやらなきゃいけないことでもないし。
焦らず、大好きの延長にあるものだと思ってればいいんじゃない?」


「…」


「ねえ、聞いてる?」


「え、聞いてる。感動してる。」


俺はいったい、何にこだわってたんだろう。

肩の荷がス…と降りた気がした。



クソピは「君、面白いね」と笑った。


「そんなことよりさ。やるべきことがあるんじゃない?
将来彼女に食わしてもらうつもり?」


「…」


それは…絶対無理。

優花にそんなポテンシャルはない。


「いつまでも学生じゃいられないんだから。本気で将来のこと考えてみな。優花ちゃんと一緒の、ね。」


「…うん。」


「おし、そうと決まれば早く帰って勉強しろ!童貞くん!」



クソピが背中をバン!と叩いて、いつの間にか来ていた駅の改札の方へと押した。



こんなとこで童貞とか叫ぶなよと思いながら階段を登る。

そこでまだお礼を言ってないことに気づいて振り返った。


「あ、言い忘れてた!」


俺が何か言う前にクソピが口を開く。


「?」


「する時はちゃんとゴムしろよー!」


「…あえて大声で言ってるよね?」


「バレた?あ、あと事前にアソコはちゃんと綺麗にしといて、それから前戯は長めにして場合によってはク


「だから何でそれ今言う!?」


絶対に駅で大声で叫ぶ内容じゃない。
なんなら最初にそういうことを教えて欲しかった。


ゲラゲラ笑ってるクソピ。

…ピアス引きちぎってやろうかな?


ひとしきり笑った後、ふー、と息をついて謎の暗号を叫ぶ。


「…月から金の4時9時」


「?」


「ライブがない時は大体いる。いつでもおいで。今度は優花ちゃんも連れて。じゃーね。」


クソピはそう言い残すと、こちらの返事を待たずにスタスタと去ってしまった。




華奢なのに妙に頼もしく感じるその背中に、少なからず胸がキュンとしてしまった自分がいて





心の中で、優花…なんかごめん、と呟いた。