それからしばらくして、怒っていた女性はおとなしく帰って行き、花見先生たちも出て行った診察室で俺はおじさんと2人になっていた。

「今日は勤務なのか?」
「いいえ、たまたま荷物を取りに寄っただけです」
「そうか。彼女、気を付けた方がいいな」
ボソリと、おじさんの口から洩れた言葉。

それがどういう意味なのか、なんとなくは分かっている。
きっとおじさんは、

「来春、ここに戻ってくるんだろ?」
「ええ」
それが条件での出向だった。

「年齢的にも以前のように人に使われるだけの立場ではいられない。帰ってくれば即戦力だし、数年後には役職だってつくだろう。大丈夫か?」
「どういう意味ですか?」

俺には荷が重いって言っているのか、それとも、

「さっきの、花見先生だっけ、ああいう子を見るたびに塙くんの事件を思い出したりしないか?」
「するかもしません」
否定はできない。

「大丈夫なのか?」
「それも含めて俺の枷でしょう?」
「そう、だな」

おじさんの心配はわかる。
俺だって不安がないわけではない。
でもやるしかないんだ。

「とにかく、彼女には注意しておいてくれ」
「はい」