ジーンズにボアブーツ、ダウンにマフラー手袋。完全防備でやって来たのはクリスマスイルミネーション。駅前通りの並木はブルーとホワイトの幻想的な光の花が満開。思わずはしゃぐ。

「うわ、すっごい綺麗ー。一回来てみたかったんだー」

短髪の頭が冷えるって、ニット帽を目深(まぶか)にかぶりダウンジャンバーのポケットに両手を突っ込んだ高野は。さっきから一言も口をきかない。さっさと帰りたいオーラ満開だよ、こっちは。

イブならみんなホテルとかレストランとか、そっちに流れるもんだと思ってたら、けっこうな人出。はぐれたらそのまんま一人で車で帰りそうな男を、横目でしっかり捕まえながら流れに任せて歩く。

ケーキもチキンもプレゼント交換もないのはともかく、年に一度きりの景色くらい観たってバチは当たんない。って散々ごねた甲斐もあったなー。内心でほくそ笑んだ。

なんとなくだよ高野。なんとなくね。思い出らしい思い出が欲しくなったっていうかねー。春になったらそろそろお寺を出て自立しよーかな、とかさ。六年も面倒みてもらって、ほらもう28歳になるしさ。

高野のおじいちゃんが、お嫁さん探ししてんの・・・知ってるしさ。