「なに、聴いてるの?」

バス待ちのベンチ。
少し遅い時間だからか、彼はひとり、音楽を聴いてた。

「ん」

「え?」

「聴いていいよ」

「ありがと」

並んで座り、差し出された片方のイヤホンを素直に耳に突っ込む。
聞こえてきたのは硬派な彼には似合わない、ラブソング。

「こんなのも聴くんだ」

「……いま、イメトレ中だから」

「なんの?」

「……」

彼が黙ってしまうから、私も黙って音楽を聴いてた。
小さく口ずさむ彼の声が心地いい。

「……君が好きだから」

男性ボーカルの声と重なって聞こえた、彼の声。
思わず見上げると、真っ赤になってる彼がいた。
返事の代わりに手をぎゅっと握ると、笑顔の彼がぎゅっと私の手を握り返した。