私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

「ほら、フリでも彼氏彼女だしさ。その方がそれっぽいっていうか!
《くがやまくん》って、微妙に発音しづらいだろ?
それに俺、結構自分の名前、気に入ってるんだ」

「うん。前にも言ったけど、私も綺麗な名前だって思う。
夜のイメージで、真昼ちゃんと対になってて」

「それをいうなら、光峰さんも《深い》に《月》で、夜の名前だよね。
《月》と《星》で、なんか親近感わく」

「あはは、わかる。
私の名前は、満月の日の深夜に産まれたから《深月》にしたらしいよ。
最初お母さんに聞いた時は『なんて安直な!』って思ったけどさ。

でも、よくよく聞いてみると、ちゃんとした理由があってね」

「へぇ。どんな?」

「私さ、めちゃくちゃ難産だったらしいの。
全然出てこなくって、お母さん、丸2日間陣痛で苦しんでたって」

「うわぁ……それは辛そうだね」

「うん。あまりの痛さに2.3回意識飛んだって、お母さんため息ついてた。
で、ようやく私が産まれたとき、真夜中で外は真っ暗で、夜空に丸い月が浮かんでて。
いつも見ている月なのに人生で一番綺麗に見えたんだって。

だから、産まれる前に決めてた名前候補を全部捨てて、《深月》って名前を付けたんだって、お母さん言ってた」

「そっか……いい名前だね」

「うん。私もこの名前、気に入ってるんだ」


私は顔を綻ばせた。