私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

(うぅ……)

3年生を、しかもあんな派手な先輩たちを相手にするなんて、正直怖い。

けれど、このまま久我山くんを見捨てることなんてできなかった。


「……深月?」


急に深呼吸を始めた私を、陽菜が不審げに見つめた。 


(よし、やるぞ!)


「あああぁぁぁ!!」


私はなるべくわざとらしくないように、いかにも慌ててますって感じの声で叫び、椅子から立ち上がった。


(……あんまりうまくいかなかった気がするけど)


「? は? 何?」

きょとんとする陽菜。

クラス中の視線が集まるのを感じながら、私は意を決して先輩たちの集団に割って入り、その中心にいる久我山くんに手を伸ばした。

ブレザーに包まれた手首を、ガッと掴む。

「ごめんっ久我山くん! 
佐原先生が久我山くんに、昼休み職員室に来てほしいって、
私が伝言されたんだけど伝えるの忘れてて、
あともしかしたら放課後も用事で残ってもらうかもって………、

────あぁもう、とにかく一緒に来て!!」


半ばやけくそで久我山くんを引っ張る私を、宝城先輩が睨んだ。


「はぁ!?意味わかんない! あんたなに!?
アタシが今、優星くんと話してるんだけど?!」

「すいません!
でも、本当に大事な用事みたいで……ほら、久我山くん行こう、急いで!!」

「まちなさ……っ!」


腕にまとわりついた宝城先輩の腕を、久我山くんが払った。


「すいません、先輩。そういうことなんで」


へらっ、と申し訳なさそうに久我山くんが笑う。

私たちは、先輩たちの文句と冷たい視線、そしてクラスメイト達が発する戸惑いの空気をたんまり浴びながら、教室を後にした。