翌々日。月曜日の朝。

私は学校の玄関で、下駄箱に靴をしまう久我山くんに出くわした。


「光峰さん。おはよう」

「お、……おはよ」


相変わらず穏やかな笑顔の久我山くんに、私はぎこちない笑みを返した。

久我山くんは一昨日のことには触れず、それ以上会話を重ねることもせず、静かに去って行った。

ほっと安心した私が、靴から上履きに履き替えようとした時、後ろから声がかけられた。


「み〜つきっ!」

「あ、陽菜。おはよう」

「ねぇ、今、久我山くんと挨拶してたよね……なんかちょっと、あやしい雰囲気じゃなかった?」

「あ、あやしい?」

「うん。……深月、久我山くんと何かあった? 
全く話したことないはずなのに、深月の名字覚えてるなんて、変じゃない?」


う。鋭い。

私は慌ててごまかす。


「ほら、私、金曜早退したじゃない?
そのことが記憶に残ってたんじゃないかな?」

「え〜……でも、あの日久我山くんが深月を見たのなんて、ほんの一瞬じゃん。
いくら深月が美人ちゃんだからって、それで顔と名前を覚えられるかな?」

「き、記憶力がすごくいいんだよ、きっと」

「そうかなぁ……」


私のしどろもどろな言い訳を、陽菜は疑っているみたいだ。

が、陽菜は不意に『ま、いっか』と手を振った。