私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

確かに、『すごく上手い!』って感じじゃない。
音程がところどころ外れるし、特に高い声を出すのが苦手みたいで、サビでは声がかすれていた。

けれど、久我山くんの落ち着いたテノールボイスは、不思議と聴き心地がよくて。

何より、ちょっと照れながらも一生懸命歌っている久我山くんの姿に、とってもキュンとしてしまった。

烈華様っぽい……言い換えると、ちょっと冷たそうに見える外見とのギャップが、女子にとってはたまらない。


「あ〜……! ほんとごめん! 上手くなくて! 
俺聞いてるから、真昼と2人でマイク回してくれていいよ!」


歌い終わると、久我山くんは恥ずかしそうに顔を隠した。

そんな姿を、『あはは!』と真昼ちゃんは軽く笑い飛ばす。


「何言ってんの! ここお兄ちゃんのおごりなんだから、バンバン歌ってくれないと!」

「いや、それは初耳だぞ!?」

「ま、真昼ちゃん! それはダメだよ!」

「いいんですよ〜。私、知ってるんですから。
お兄ちゃんが今日、お母さんからたっぷりお金を預かってること♪」

「あれは、お前になんかあったら困るからって、念のために持たせてもらってただけだよ! 帰ったらちゃんと母さんに返すぞ!」

「ちぇ、つまんないの」


真昼ちゃんが唇を尖らせた。


「でも、お兄ちゃんが歌わないのは無しだからね。2人で回してたら、すぐに喉ガラガラになっちゃうじゃん」