私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

それから私たちは、せっかくカラオケに来たのだから、と歌いまくった。


「深月さん、歌うまっ!」


私が有名なアニソンを歌うと、真昼ちゃんが目を丸くして褒めてくれた。


「ありがとう。この曲、100回は練習したから」

「え〜、流石に100回は多すぎですよ〜」


真昼ちゃんは冗談だと思ったようだけど、マジだ。
大好きなこの曲でどうしても満点を出したくて、一時期カラオケに通って、楽曲履歴を同じ曲だらけにしていた。
クラスのみんなや友達と行くカラオケでは、オタクがバレるのが怖くて歌えないのが難点だけど……。


「私、この曲歌って良いですか? ちょっとマイナーなんですけど!」

「あ、この歌、サビだけは知ってる。よくCMで流れてるやつ」

「えへへ、実は彼氏がこのアニメ好きで、練習させられたんです」

「え、真昼ちゃん、彼氏いるの!?」


私は思わず大きな声を出してしまった。


「いますよ〜。同じバレー部なんですけど、1年の時にアニメの話で意気投合して」

「うちにも何回か来たことあるけど、すごい礼儀正しくて真面目な奴だよな」


久我山くんが、そう補足する。


「俺のことも『お兄様!』なんて呼んできて……いや、お兄様はやめてほしいんだけど。マジで」

「あぁ。あれ、有丘(ありおか)くんがハマってるアニメキャラの真似だよ」

「そうか。知りたくなかった」


『あ、有丘くんってのは私の彼氏です』と真昼ちゃんが付け足してくれる。


「ちなみにあだ名は《アニオタアリオカ》です」

「お、面白い人だね……?」

「でも、バレーは強いんですよ? よく必殺技の名前叫びながら、アタック決めてます。
最近は部員のみんなと、バレーアニメの鑑賞会や、かっこいい必殺技考案会議を開いたりしてるらしいです」

「な、仲良しでいいね……?」


会ってみたいような会ってみたくないような……。
ともあれ、真昼ちゃんの彼氏は、なかなか個性的な人のようだった。