私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

翌日、教室に入ると、クラスメイトの女の子が駆け寄ってきた。


「光峰さん! 昨日ようやく、『墨染の宵』読み終わったよ! すっごい泣けた!」

柚木(ゆずき)さん、もう読んでくれたの?! 長くて大変じゃなかった?」

「全然! 先が気になって気になって、徹夜しちゃった」


ほんわかとした笑顔で笑うのは、クラスメイトの柚木瑠花(るか)さん。
セミロングの髪に丸い眼鏡が可愛らしい彼女は、小説や漫画が大好きらしい。

『エレアル』も読んでいて、烈華様推しではないが、私の小説を楽しんでくれているみたいだ。


柚木さんのグループの子達も、何人か話しかけてくれる。

「私も、瑠花に借りた『エレアル』読み終わったら読みたいな〜、光峰さんの小説」

「最初はびっくりしたけど、あんなにたくさんの小説を書けるなんてすごいよね!
私も文芸部で小説書いてるけど、月一の部誌のノルマでいっぱいいっぱいだよ〜」

「ね、『エレアル』以外も読んだりするの?
おすすめの漫画があるんだけど、読まない?」


みんな、漫画や小説が好きな子達で、すごく話しやすい。
秘密がバレたことで、今まで以上に距離が縮まった。


一方で、


「あーあ……見てよ、あれ。光峰さん、オタク女の仲間入りしてる」

「ちょっとオタクってぐらいならいいけどさぁ……妄想小説垂れ流してんのは流石に引くよね」


なんて声が、教室の隅から聞こえてきたりする。

クラス全員が理解してくれるなんて、最初から思ってなかった。

それでも、思っていたよりずっと、教室の空気は良かった。

ほとんどの人たちは、それぞれのグループで、それぞれの話題に花を咲かせている。

案外、クラスメイトの趣味なんて、みんなあんまり気にしてないのかもしれない。