「そういえばさ、知ってる? 宝城先輩のこと」

「宝城先輩がどうかしたの?」

「SNSとか動画、全部消したらしいよ」

「え!?」

「佐原先生が、深月の件ですごく怒ったみたいでさ。
『お前も一度、大事なものを失う苦しみを味わってみろ!』とか説教したらしいよ。

佐原先生が勝手に消したんじゃなくて、散々怒られて反省した宝城先輩が、自分で消したみたい。
しばらくはおとなしくしてるんじゃないかな」

「そっか……」


正直、宝城先輩のしたことは、まだ許しきれない。
でも、今後はあんな恐ろしい目に遭わないのだと思うと、とりあえずホッとした。


「……ねぇ、深月。
あたし今から、深月が不愉快になるかもしれないこというけど、いいかな?」

「……何?」

「あたしさ、深月の秘密を知ってから、ネットで色々調べたんだ。
そうしたら、いっぱいいたの。
深月みたいに、架空のキャラクターを異性として好きだって言う人」

「……え?」


私みたいな人がいるの?
それも、たくさん?


「あたしも、ネットニュースで偶然見つけたんだけどさ。
《フィクトセクシャル》て呼ぶらしいよ、そういう人のこと。
《フィクト》は《フィクション》の略ね」

「フィクトセクシャル……」

「ひょっとして、深月も《それ》なんじゃない?」


私は、ひどく驚いていた。
架空のキャラクターを本気で愛してるなんて、私だけだと思ってたから。
同じような人がたくさんいて、呼び名まであるなんて。

男の人を好きになる男の人がいるように。
生まれもった自分の性別に違和感を持つ人がいるように。
あるいは、異性に対する愛を持たない人がいるように。

私のこの感情も、そうした多様性の、一つなのかもしれない。