私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

「なんだそのアホな噂!? どこでそんなの聞いた!?」

「だって、2年の子が言ってたもん!
『放課後に2人でいるの見た』って!」

「作業してただけだっつの! 担任と学級委員長なんだから当たり前だろうが!」

「こんな可愛い女子高生と2人きりとか、パパ、下心ありありじゃん!」

「ねぇよ! あってたまるか!!」

「パパと不倫してる上に、久我山くんと付き合うとか、まじサイアクなんだけどっ!!」


……えーと……。

ひょっとして私、親子喧嘩に巻き込まれただけ?


「あのー、宝城先輩。ちょっといいです?」


ぽんぽん、と宝城先輩の肩を叩いた勇気ある女子は、陽菜だった。


「佐原先生が不倫なんて、ありえませんよ?
だって、いっっっつも、うちらに向けて、奥さんとか子供のこと、のろけてきますもん」


『ね? みんな』と、陽菜がクラスメイトたちに水を向ける。

混乱して固まっていたクラスメイトたちは、ハッと我に帰ると、一斉に頷いた。


「授業中も、『奥さんが優しい』とか、『子供がめっちゃ可愛い』とか、自慢ばっかり」

「『娘を将来どこにも嫁にやりたくない』って、一週間に一度は言ってるよな」

「まさか、その子供が宝城先輩なんて思わなかったけど……」

「いつもにやけちゃってさぁ。溺愛してるよね」

「……本当に?」

 
クラスメイトたちの言葉に、宝城先輩は納得してくれたようだった。


「ほら、わかったらさっさと謝れ」


佐原先生に促されて、宝城先輩が頭を下げた。


「……ごめんなさい」


周りの先輩たちも、『お前らも』と先生に言われ、頭を下げた。