久我山優星(くがやまゆうせい)


転校生の彼はそう名乗った。
気がする。

気がする、というのは、私の記憶が曖昧だからだ。

何せ私は、彼の姿を一目見てからと言うもの、頭が全く働かなくなり、喋る言葉も呂律が回らなくなり、表情を作ることすら困難になってしまった。


「み、深月、なんか変だよ? 気分でも悪いの?」

「え? な、なに、ぜんぜん……ぜんぜん、だいじょうぶ……だけど?」

「いや、おかしいって! なんかふらふらしてるし、手も震えてるし! 
それにほら、顔が真っ赤だよ!

先生! 深月が体調悪そうなんで、保健室に連れて行っていいですか!?」


陽菜に散々心配された挙句、足取りもおぼつかないまま保健室に連行された。

養護教諭の先生は、私に体温計を渡し熱を測らせると、


「熱はないみたいだけど……、うーん、確かに様子がおかしいわね。
魂がどっか行っちゃってる感じ。
おーい、光峰さん、大丈夫?」


先生が目の前でひらひらと手を振るが、私はやる気なく人形のように頷くだけ。
私の横に立つ陽菜が言い添える。

「深月、昨日あんまり寝てないって言ってました」

「あら、じゃあ、寝不足でぼうっとしてるだけかしら。
ここのベッドで寝ていってもいいけど……今日は午前中に始業式があるだけだし、家に帰ってゆっくり休んだら?」


養護教諭の先生に勧められるまま、私は家に帰された。
陽菜が付き添ってくれると言ったけど、『1人で大丈夫』となんとか断って、私は帰途に着いた。


帰宅した私は、すごく心配してくる母親をなんとか誤魔化して自室に辿り着くと、即座にベッドにダイブした。

そして、声が響かぬよう枕を口に押し付けると。


「あぁぁあああぁぁあぁ〜〜!!」


渾身の叫びと共に、足をジタバタさせた。