優星くんと遊園地に行った翌日、月曜日の夜。

部屋で小説を書いていたのだが、ちっとも指が動かない。

原因は、優星くんだ。


(……昨日のセイレニア、楽しかったな)


優星くんと長い時間を2人で過ごしたのは初めてだったけど、すごく居心地がよかった。

烈華様に似ているからじゃない。

優星くんが、すごく優しくて、話しやすい人だからだ。


(もし、優星くんが本当に彼氏だったら……)


そんなことを想像している自分にびっくりした。


「いやいやいや!! 私には、烈華様がいるから!」


いくら烈華様が2次元のキャラだからといって、他の人を好きになるなんて……。

私はふるふると首を振り、不実な想像を打ち消した。

そのとき、ドアがノックされた。


「お兄ちゃん? もう読んだんだ、早いね」


お兄ちゃんの手には、今日発売の漫画雑誌ダイヴ。
もう片方の手で、ワックスでピンピン跳ねさせた髪を掻きながら、おもむろに尋ねてくる。



「なぁ、お前、『エレアル』好きなんだよな。どのキャラが一番好き?」

「何、急に?」

「いいから。誰推し?」

「……強いて言えば、焔烈華」

「あー……」


お兄ちゃんは意味ありげにニヤニヤした。


「何? なんか、やな感じ」

「いやー……お前、今週の『エレアル』、読まない方がいいんじゃねえか?」

「はぁ? 何言ってんの?」


『エレアル』を読まないなんてありえない。

私がそう言うと、お兄ちゃんは『ま、頑張れよ』と、投げやりに告げて去っていった。

私の部屋にあるテーブルに、今週のダイヴを置いて。


「何あれ……」


遊園地でお兄ちゃんに遭遇したのは、本当に失敗だったなぁ。

私はため息をつきつつ、お兄ちゃんの言葉の意味を考えようとしたが、それよりは『エレアル』を読んでしまった方が早い。

私は気を取り直して、漫画雑誌を手に取り、今週の『エレアル』を読み始めた。